島キャン実施レポート

牛にひかれて徳之島

2019年夏 徳之島
サンセットリゾート
8/29~9/11
上智大学/総合人間科学部社会学科  沼春樹
見たことのない日本の一面に出会う
ただのスタッフにとどまらない
サンセットリゾートから見える夕景は毎日異なります。写真は台風が来る前の日。怒っているように見えました。雲の量、形、風の吹き方、まったく同じになることはなく、今日はどんなだろうというのを日々楽しみにしていました。

徳之島での二週間は、「サンセットリゾート」さんで働かせていただきました。このホテルは天城町の与名間ビーチの目の前にあり、その名の通り、贅沢な夕景を楽しめる立地となっております。僕は二週間、そのホテルのレストランのホールで就業体験しました。

東京では塾や企業のインターンシップで働いていたので、飲食店の接客業というのを島に来て初めて体験しました。オーダーを取って厨房に伝えて料理が出来たらお客様にお出しする。お客様が食事を終えたら食器をさげる。という至ってシンプルな仕事の流れではあります。ですがその中でどうやったらお客様が楽しくおいしくお食事いただけるかというところを考え始めたとき、ぐっと世界が広がる感じがしました。

円滑にオーダーを取って提供するということも大事ですが、特に印象的に感じたのは、お客様との会話というコミュニケーションでした。例えば、僕が東京で特にチェーンの飲食店に行くときは、大抵とりあえず頼んだものが出てきて普通に食べられれば良いという感じで、お店の人とあえてコミュニケーションを取ろうという意識が生まれることはめったにありません。ですが、僕がここで働いているときには、たくさんのお客様とお話する機会がありました。「シマの子?」的な入口から入り、なぜ僕がここに来ているのかというのをお客様とお話することが多くありました。レストランで働く中に、お客様に自分の身の上話をするということが含まれているとは思ってもみませんでした。だからお客様とお話する機会が多かったことは印象に残っています。これはおそらく島で働く、特に島の外の人間が島で働く際にはよくあることなんだろうなと思いました。

せっかく話しかけていただいたので楽しんでもらいたいと思い、お話させていただきました。食べて終わる食事ではなく、そこでうまれたコミュニケーションまでもが楽しいものになるように、お店のスタッフとしてやれることがありました。いわゆるチェーン店の仕事が店員間で均質になっていく中で、ここでのお客様とのコミュニケーションは僕には僕にしかできない話があるし、他の人には他の人にしかできない話があり、店員間で差異が出るおもしろさがありました。ただのスタッフとして接客するのではなく、「自分」というスタッフとして接客すること、「自分」というスタッフとしてお客様を楽しませ、ありがとうと言われることの喜びを知ることができました。

公道を牛が歩く
牛の散歩を体験させてもらいました。デビュー前の牛ですが、とてつもないパワー。だけど優しい瞳をしています。大切に育てられているというのがすごく感じられました。

「徳之島」そう聞いて何が思い浮かぶでしょうか

子宝?長寿? それとも…?

徳之島といえば出生率が2を優に上回る子宝の島や、一方でギネスブックに載るようなご長寿の方もいることから長寿の島としても名高いです。しかし徳之島と言えばで忘れてはいけないのが闘牛です。大きな大会が島では年3回開催され、現在闘牛の日本一もこの島から輩出されています。大会になると会場いっぱいに人が集まり熱狂するそうです。またそうした特別な日だけでなく、普段から牛が公道を散歩し、それを徐行した車がよけるという、都市では考えられない光景が日常に存在します。それほどまでに島の人に大切にされる闘牛文化がどんなものなのか、僕は知りたくてたまりませんでした。

ご縁があって闘牛を飼っている方にお話を聞くことができました。その方は畜産の牛と並行して闘牛の牛を飼育していました。畜産はお金になるけど、闘牛はあまりお金にならないとおっしゃっていました。じゃあなぜやるの??

闘牛はもちろん個人で飼うこともありますが、仲間内でお金を出し合うということもありますし、飼育を仲間とするということもあります。仕事終わりや仕事の合間を縫ってみんなで牛の世話をします。相手あっての闘牛なので、牛飼い同士のつながりも重要になります。闘牛を飼うということは、横のつながりを維持する営みであることがわかります。

横がきたら次は縦。闘牛の世話は子どももおこないます。あのでかい牛を子どもが連れて歩いている光景も目にしました。僕が見せていただいた牛飼いのお子さんも、前のめりになって牛の世話をしたがっていました。島の若者も仲間と牛を世話します。親から子へ、世代から世代へ闘牛文化のバトンは渡されます。

こうして闘牛によって横と縦のつながりが維持されており、徳之島の人々のひとつのネットワークが構築されているという現実を見ました。そう考えると、お金のかかる娯楽とはいえ、続けるというのにはとても納得がいく、価値ある文化だと思いました。

確かにいろんな観点から批判されることもある文化だけど、大会のワンシーンだけ見るのではなく、もっと大きな過程の中で闘牛文化を眺めると、そこには暮らしを支える基盤となる島民のコミュニティを形づくっている側面もあることがよくわかりました。

島らしく遊ぶ
ハブをつかむ。早業でした。もちろんナイトツアー的な要素の方が強く、山道ではクロウサギが見られたり、希少なカエルもたくさん見られます。ロードキルには最大限の配慮を。

闘牛のほかにも島には島ならではの遊びがあります。BBQ。アグリ徳之島の松尾くん(同じ期間に就業した島キャン生)に誘われ、島の同窓生でおこなわれるBBQに行ってきました。たくさんの肉とたくさんの魚とたくさんの貝が網の上に並びました。その日に自分たちで獲ったりしたものらしい。めちゃくちゃおいしいけど、ぜ、贅沢...。島ではそれが当たり前だと教わりました。自分たちで食材を獲って自分たちで楽しむBBQ。なんとも贅沢で楽しい遊びです。

夜の素潜り。サンセットリゾートの皆さんに連れて行ってもらいました。ライト片手に見る夜の海は、昼に見るのとはまた違った景色が広がります。ライトに照らされるサンゴや岩は実に幻想的で、不思議な世界。夜の海にはちょっと怖いイメージがあったけど、あの暗い海の底にはこんなにも美しい景色があるのかと感心しました。(ただ、ライトの電池が減ってきてチカチカしだしたときはちょっと焦りましたが笑)

ハブ獲り。夜、車に乗って山道へ。道へとせり出すシダなどの植物を横目に10~20キロくらいの低速で道を走ります。まるでアトラクション。世界観の作りこみ方が違う、というか作りこんでない天然のやつ。身を乗り出すようにして道の端から端まで凝視します。やつのあの柄は見えないか?いました!脇の草へ少しづつ入ろうとするやつの姿が。急いで車から降りて、ハブ獲り棒でさっとつかむ。尻尾をおさえてゆっくりと箱の中へ。封をすれば完了です。この間わずかに1分とかかりません。もちろん素人の僕はハブをつかむことはしませんでしたが、連れて行ってくれた僕より歳が2つ下で、それでも僕よりよっぽど勇敢な青年の身体の動きや息遣いから、緊張感や高揚感が流れ込み、近頃感じることのなかった興奮を覚えました。

島の遊びは島でしかできません。きれいな海、きれいな山、そこに生きる多様な生物たちなくしてこの遊びは成立しません。島の人にとってはこれが日常で、当たり前の遊びかもしれませんが、外の僕たちからはこれが日常であることが全く信じられない、カルチャーショックです。都市の青年が同時刻に居酒屋やカラオケで夜を楽しむ一方で、島では仲間と獲った食材を並べ、酒を飲み交わしたり、ライトをもって夜の海に潜っていったり、危険なハブとの一騎討をしているという現実があります。同じ日本という枠の中で。

島の遊びの途中、ふと都市にいる仲間が何しているだろうかと想像したとき、何とも言えない違和感を覚えました。

サンセットリゾートのまかないで作っていただいた水粥。冷たいおかゆ。暑い島ならではの昼食。風土と接点を持って食文化があることを感じました。
自転車移動をしていると五感がセンサーになります。牛の匂いがすればそこには牛小屋が。メエ~と聴こえるとそこにはヤギが。確かに道はハードだけど、車では見過ごしてしまいそうなものや感じることのできなかったであろう匂いや声を感じることができます。写真は壁画のようなヤギ。
夜に獲ったエビ、魚、貝が次の朝には食卓に。新鮮な身からはゴージャスな甘みが溢れました。こんな贅沢が存在するのか…。