島キャン実施レポート

10代最後の夏、徳之島で

2019年夏 徳之島
農事組合法人 アグリ徳之島
9/12〜9/25
宇都宮大学/地域デザイン科学部  中村 皓彦
島で働く、島で暮らす
汗を流して働くことで気づくもの
肥料配達中の一コマ。手前と奥合わせてこれで70袋ほどあります。

「農家でやっていけるのかな?」これが私の就業先決定直後の気持ちでした。私は農学部の学生ではないし、農業といえばキツそうなイメージがあり、正直不安でした。しかしこの出会いは何かのご縁だと感じ、どんな過酷な仕事でもやり抜くことを決意して、徳之島へと向かいました。

アグリ徳之島での仕事は、まもなく始まる農繁期に向けての準備として、畑の草刈りと島の農家さんたちへの肥料配達がメインでした。気温が30度を超える中での作業は過酷です。草刈りは機械でおこないますが、その機械はなかなか重く、肩から吊り下げるため長くやっていると肩に負担がかかります。肥料配達では一袋20キロある肥料を、港や農協の支所でトラックに積み込み、島中の農家さんの元へ届けます。多い日はふたりで1日300袋もの肥料を運んだこともありました。毎日汗まみれで、朝起きると体中が痛いこともしばしばでした。

しかし、私が感じたのは農業の大変さではなく、普段のアルバイトでは感じたことの無かった働くことの楽しさでした。私は、飲食店でのアルバイト経験がありますが、アグリ徳之島での仕事はその何倍も大変で、働いている時間も長かったのですが、なぜか苦に感じることはありませんでした。またアグリ徳之島の長野将武さん(以後たけさんと書きます)は、「体を使う仕事をすると心が豊かになる」とおっしゃっていました。確かに島で働いていると、普段は気づかないようなことにも敏感になりました。作業の合間に飲む水は格別でしたし、屋外での作業が多かったので、時折心地よい風に吹かれることもありました。多種多様な働き方がある現代、快適な環境で働ける職はいくらでもあります。しかしそのような中で働いていても、水のおいしさにも、風の心地よさにも気づくことは無いでしょう。汗を流して働くからこそ気づくものがある。徳之島でそのようなことを感じました。

下久志十五夜祭
十五夜祭での踊り。踊りの輪の真ん中で撮影しました。

たけさんの人脈のおかげで多くの島の方々と交流でき、2週間の中で最も印象に残っているのが、9/13・14におこなわれた「下久志十五夜祭」です。たけさんの同級生である健太さんをはじめとする、下久志青年団の方々と一緒に準備・運営のお手伝いをさせていただきました。下久志集落はそれほど大きな集落ではないものの、十五夜祭は集落の方々以外にも、近隣の集落の方やこの祭りのためだけに本土から下久志へと帰ってくる方もいらっしゃるため、大盛り上がりでした。

祭りは前夜祭と本祭の2日間に渡っておこなわれましたが、両日ともに下久志伝統の踊りを踊りました。よそ者である私もこの踊りに参加させていただき、島の方々の優しさに感動しました。この他にも、祭りのなかで、たくさんの人々に話しかけていただいたり、ご飯をおすそ分けいただいたりと、この時ほど島の人々の温かさに触れたときはありませんでした。本土の田舎は排他的で、よそ者を受け入れない風潮の場所が多いです。本土の田舎と島の違いに気づいた私は、島の方に「どうして皆さんはよそ者である私にこんなに優しくしてくださるのですか?」と思い切って聞いてみました。すると「島だからだよ」という答えが返ってきました。はじめは「答えになっていない」と思ってしまいましたが、今思えばそれが全てだと感じます。周囲を海に囲まれてたどり着くのに時間がかかる島だから、島の外から来た人間をここまでもてなしてくださるのかもしれません。様々な理由があるでしょうが、ひとつ確かなのは、私が「島キャン生だから」もてなしてくださった訳ではないということです。祭りに参加した2日間は、徳之島が人情の島と呼ばれる理由を知ることができた時間でした。

島の風景
島中に広がるサトウキビ畑。

私は東北・宮城県の出身です。そんな私にとって、徳之島での日々は新鮮そのものでした。島のお年寄りの方々が話す言葉は全く聞き取れないし、島の料理は今まで食べたことがない食材が使われていて、特に醤油が甘いことは衝撃的でした(九州の醤油は甘いということも今回初めて知りました)。中でも私にとって最も新鮮だったのは、島中に広がるサトウキビ畑でした。これまで写真でしか見たことがなかったのですが、初めて本物を見てその広大さに圧倒されました。鮮やかな緑色、吹きぬける風の音、初めて見る風景でしたが、どこか見慣れた東北の夏の田園風景にも似ていました。稲もサトウキビも同じイネ科の植物だからでしょうか。

そのサトウキビ畑にも見慣れた頃、徳之島から帰る時がやってきました。港に向かう車の中で、もはや日常の風景となった海やサトウキビ畑を眺め、亀徳の港でお世話になったみなさんとお別れをして出港。2週間の間でできた経験、思い出、お世話になった方々への感謝...そんなことを振り返りながら、私以外には誰もいない船のデッキから遠ざかっていく徳之島をいつまでも見ていました。縁も所縁もなかったこの島は、自分でも知らず知らずのうちに第2の故郷と呼べる場所になっていました。10代最後の夏を徳之島で過ごせたことは、私にとって一生の財産です。

パイナップルの苗の収穫中。
たまたま闘牛大会にも行くことができました!
たけさんの同級生の皆さんとのBBQ。