島キャン実施レポート

島だからこそを考えた2週間

2018年夏 新上五島町
くらしの学校 えん
9/1~9/14
横浜市立大学/国際総合科学部  壽山由佳
おしゃべりとごはんと全力で遊びつくすことが大切なんです
島のなかではたらくを探る
絵本の読み聞かせを初めてしました!緊張!いのちを食べることの重大さを学びます。

子どもたちの居場所作りに興味があったため、島キャンの事業所一覧の中で子供と関わりを持てる事業所を探し、いくつか応募しました。その中でも今回お世話になった小野さんは、一週間という比較的長期間の子どもキャンプが予定されていることから「キャンプをやる塩屋さんだ」というのが行くまでの印象でした。しかしキャンプが終わった今は、塩屋をしながらも「子どもに、島にある自然を体験してもらいたい」という思いだけでキャンプを生活中に取り入れているという印象です。くらしの学校えんを経営している小野さんは、塩を売って主な収入を得ており、キャンプでは利益を求めません。周囲にもその考えに同意して、キャンプ中は無償で働いてくださる方々がいます。島の外からキャンプを卒業した高校生や大学生もお手伝いに来ました。キャンプ中は、20人ほどいる子どもたちの安全を見守りながら、できる限り好きなことをさせようと、大人も子どもに付かず離れず見守ります。結構忙しい上に子どもの無限の体力にへこたれそうになります。しかしこの期間中、小野さんはもちろん塩を作り続けました。どうしてここまで苦労してキャンプをするのだろうと不思議に思う人もいるかもしれませんが、キャンプ場で出会って仲を深める子どもたちが、来年またキャンプにやって来て火起こしなどで成長した姿をみせる。高校生になったらまたサブリーダーとしてお手伝いをしに来る。大学生になっても社会人になっても遊びに来て、就職や結婚、出産の報告をしたり、時には遠方から知らせがとどいたりする。ここがみんなの居場所になっていると感じました。成長を一緒に喜んだり、楽しいと笑ってくれる子どもたちとのキャンプに参加し、子供だけではなく周囲のサポーターと関わる中で、無償で働けるほどの楽しみを見つけられた気がしました。そもそも小野さんは関東の出身で、子どもたちに島に来て自然の良さに触れてもらいたいというのはそこから来ているのかもしれないと思えます。加えて塩屋の小野さんは、塩を生み出す海や周囲の自然をとても大切にします。奥さんはよく「塩屋が売り物を汚しちゃダメなのよ」というようなことを言っていました。そのため、洗濯や食器洗いに使う洗剤、お掃除の洗剤などは水に戻りやすいものを使います。汚れや匂いはちょっと落ちにくいですが、塩が生活を支えていることを実感させられます。はたらくが日常生活の様々なところに影響しあっていました。一度「なぜ塩屋をしているのですか」と尋ねたことがあります。小野さんは「自給自足の生活に一番適合しやすい仕事だったから」とおっしゃいました。自分の理想の暮らしを求めてその先に働くをみつける。自然に即した島らしさを感じました。キャンプも塩屋も島に移住した小野さんの自然の中でやりたいことを実際おこなったものだとわかりました。これからはもっと山村留学などに重きを置きたいということもおっしゃっていたので、また遊びに行くのが楽しみです!

島と歴史とごはんと
島マルシェの様子。

新上五島町といえば最近、世界遺産に登録されたことで有名です。確かに島をドライブしているとたくさんの教会を目にします。しかし島でお話を伺っていると、特にキリシタンが多いというわけではなく、あくまで本土において弾圧が始まってから住むようになった方が多いようです。そう考えると私が巡った教会も斜面の上にあり、少し階段を登らないといけないところにあったり、世界遺産の頭ケ島教会もかつては無人島であったりと少々立地が悪いような気がいたします。他にも捕鯨のことや食文化のことなど、歴史を知れば知るほど面白味を増してゆく島だと感じました。

 食文化についてもう少し掘り下げます。新上五島では米や大豆が育ちにくく、芋と小麦がよく育つという日本の中でも少し変わった土壌があります。例えば、新上五島町で美味しいものと言うと、「うどん」と「かんころ餅(サツマイモと少しのお餅を混ぜたもの)」が挙がるのがその土壌を表しています。この食を通じて新上五島町に新しい風を吹かせている女性たち主催のマルシェに、えんさんのお手伝いで参加させていただいたのは良い経験でした。自分たちも農家をやりつつ、肉まんやかりんとうなどの商品を開発し、そのものの美味しさを発信する。また、あまり食べられなくなっているかんころ餅の再発信にも意欲的でした。つきたてのお餅を使ったかんころ餅はとても美味しいですし、かんころの作り方を載せたパンフレットのようなものは、絵本のように可愛らしいデザインとストーリーでした。当たり前にあるものにまた興味を持ってもらえるように発信をしたり、新しい魅力を作っていくのは難しくも、島や各々地域で課題としているところが多いのではないかと感じています。暮らしの学校でも、手作りの塩で梅干しやふりかけ、そうめん、うどんに醤油、味噌、イノシシベーコンなど様々なものをいただき、今回の島キャンで地域と食についてたくさん考えさせられました。

個人的には終始体に優しい美味しいものが食べれて幸せでした。

なんでみんな島に行きたがる?
世界遺産の頭ケ島教会

離島に対して特別感を持っていない島出身の私からすると「島に行きたい」とか「島おこしをしたい」という人に対して思わず、「島ではないといけない理由ってなに?」と尋ねてしまうところがあります。地域おこしをおこなわないといけないところなんて本州にもたくさんありますし、海だってある。むしろ本州の方が行くには便利だし、活躍しやすいのではないか。島キャンに参加したことでこの考えが少し変わったことを報告したいと思います。

新上五島町は二番目に書いた通り、歴史の色濃い島です。その中でも頭ケ島は岩だらけの不便な無人島でしたが、現在では迫害から逃れるために移り住んだ人々のひっそりとした穏やかな生活が染み付いています。陸続きではないことが産んだ孤島ならではの風景でした。そして本土とは異なった食、言葉、生業。チェーン店がほとんどなく、地元の人が経営する店が人気であること。店が少ないので競争があまり激しくないです(笑)台風が来て船が止まると地場産のもののありがたみに気づけること。どれも当たり前のようですが、島ならではのものであり、「住んでいる人が輝ける環境」みたいなものが羨ましくなるのかも知れないなと思います。また、孤立した空間だからこそ、誰にも感化されずにこの言葉などを深められたと思うと、その歴史や文化の色濃さはやはり島ならではかなと思います。また、高校を卒業した若者の流出はここでも顕著であり、大学生が行くだけで興味を持ってもらえたり構ってもらえたりします。行くと気づくことがたくさんあるなと思いました。また自分の生まれた島との違いもたくさんあって面白かったです。

島でうどんと言えばここ!といううどん屋
えんに就業すると食べられる美味しいごはん
島で人気のとろとろたこ焼き